須崎家、訪問



 とんでもないところに来てしまった。
 そう感じているのは杉本だけらしい。山崎は相変わらずにこにこと微笑んで煙草をくわえているし、純矢はそもそもこれがどういうことか理解ができないから、いつもどおりの無表情だ。
「どうぞ、あがってくださいまし」
咲子に優しく微笑まれ、杉本は何とか笑顔を返すが、心は緊張ではちきれそうだった。
 事の発端はこうである。
 一人歩きの女性に、しきりに話しかけながら歩く男がいた。女性は困ったような顔をして、それでも断りきれないのか、あいまいに相槌を打っている。
 男はそうやって話すことに夢中になり、前を見ていなかった。案の定、対向して歩いてきた男性とぶつかってしまった。
「てめぇ!あやま…」
そこまで男が叫んだ瞬間、体が数メートルほど飛ばされ、地面に転がった。
「貴様」
目の前に刀が突きつけられる。
「誰に向かって口を聞いている。」
海軍の制服を着込んだ男が今にも斬り殺さんばかりの勢いで、彼を見下ろしている。
 かっちりと制服を着てはいるが、手には日本酒の一升瓶と煙草1ダースを入れた袋を抱えて、不釣合いなことこの上ない。
「純矢」
その後ろで、長い髪を後ろに流した優しげな男が、煙草をくわえている。
「大丈夫だって、当たってないから。」
「ですが」
「当たる前にお前が突き飛ばしたから大丈夫だって」
「ですが、軍人に対してこの態度は」
「大丈夫だよ、突き飛ばした上に殴り飛ばしたから。」
二人は山崎と純矢である。騒ぎの渦中にいる二人を眺めながら、杉本は食べ物をたくさん詰めたかばんを抱えたままため息をついた。
 休みが三人で揃ったので、山崎の下宿先に遊びにいき、鍋でもつつこうということになったのである。買出しを済ませ、いざ下宿へというときに、煙草をつけようとした山崎が、今地面に転がって震えている男にぶつかりそうになった。それを、純矢が間一髪のところで男を突き飛ばし、挙句に殴り飛ばしたのである。
 軍服と刀の威力、そして純矢の尋常ならざる殺意に、男は起き上がることができない。それを純矢は鼻で笑い、
「とっとと失せろ。」
杉本はそれを見ながら、隣に居たあの女性に話しかけた。
「なんにせよ、逃げ切れましたね。あいつも少しは役立つもんだ」
彼女は一瞬安心したような表情を浮かべたが、困ったように目を伏せ、
「あの…お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
長いまつげが目元に影を作り、おとなしげな女性をいっそう弱々しげに見せた。杉本は久々の商売ではない女に動揺し、
「え、いいですよ、どうしました?」
「すみません、道に迷ってしまいまして…このあたりにお詳しければ、と思って」
そこまで言い、彼女はおかしそうに笑った。杉本ははたと荷物に目をやる。
 彼女の視線の先には、たくさんの野菜や肉、魚の食材だ。
「あ、すみません。男の方がこんなにたくさんの材料をお持ちになっていて…」
「はは、これから部隊の仲間と鍋をやろうと思って。」
ころころとしたかわいい笑顔を浮かべて、彼女は笑う。
「久々のお休みを潰しては申し訳がございません。もう少し歩いてみますので。」
頭を下げて離れようとする彼女に、
「いいんですってば。案内しますよ?行き先が分かれば…」
そこまで言って、杉本ははたと言葉を切った。杉本だってこの地は初めてだ。山崎のほうが詳しいだろう。
 しかし、ここで山崎を出したくない。山崎に交代すれば、いつも女の心は山崎に行く。
「…えっと…」
杉本はそれでも次が続かない。観念したように、
「隊長がここらに下宿しているんで、きっと隊長が詳しいだろうから…」
言って、山崎に顔を向けた。
「隊長」
怒り覚めやらぬ純矢をなだめていた山崎は、
「どうした?」
「隊長」
杉本がもう一度言うと、彼女はより恐縮した。山崎は煙草を捨て、
「どうも、怖い思いをさせてしまってすみません。」
山崎は手馴れている。杉本が事情を話すと、優しい笑みを浮かべて、
「遠慮なさらず。もうすぐ暗くなりますから。どこかにお泊りならそちらにお連れしますし、駅ならここからすぐですから、ご案内しましょう。」
「そんな…」
「あぁ、申し遅れました、私は海軍の…横須賀にある第10航空隊の第一中隊の山崎と申します。こちらは部下の杉本。先ほど刀を抜いたのは織田と言います。大丈夫。時間はありますので。」
「私は須崎咲子と申します。親戚の家に遊びに来たのですけれど、場所が分からなくなってしまって…」
須崎、と聞いて山崎は頷いた。
「須崎さん、のご親戚ですか」
「ご存知なのですか?」
「えぇ、ここらで知らない者はいませんよ。そちらに行けば分かりますか?」
咲子は小さく頷いた。
 着いた先は、純和風家屋の、入るのも気が引ける門構えの家だった。あっけに取られている杉本に、
「口を閉じろ」
終始無言だった純矢がさすがに注意するくらいである。
「だって、これ、ありえねぇ…」
「何が。」
そんな二人をよそに、
「こちらでしょうか?」
山崎は少しも臆することもなく言う。咲子は安心したように、
「えぇ…」
「咲子様!」
路地から出てきた女中が声を上げて走りよる。
「お探ししましたよ!皆様心配しております!」
「ごめんなさい。少し歩いてみたくて…」
肩をすくめて小さく言う。女中は門を開けて母屋らしき大きな屋敷に声をかけた。
「貴志様!咲子様がお帰りになりました!」
その名に、一瞬純矢がこわばる。杉本も山崎も真顔になった。
 しかし、出てきたのは三人が知る貴志ではなかった。育ちのいい、素直そうな青年が庭先から走り寄ってくる。
「咲子!よかった!心配したんだぞ!」
「ごめんなさい、道に迷ってしまって。でもこちらの方たちが送ってくださって。」
咲子は山崎に頭を下げた。
「本当にありがとうございました。なんてお礼を言えば…」
「いいえ、よかった。須崎家で。他の家なら交番に入るしかありませんでした。」
では、と山崎は軽く会釈をする。貴志は慌てて
「よかったら上がっていってください。」
山崎は僅かに杉本と純矢に視線を移した。
「えぇ、ですが、ご案内しただけですし、今日は部下達と鍋をやろうと材料を買い込んでしまったのです。咲子さんも疲れているでしょうし、お気遣いなく。」
「しかし」
貴志はしばらく考え込み、やがて明るい笑顔で言った。
「御礼をしないわけにはまいりません。もしよろしければ、今度我が家に招待させてください。」
貴志の眼差しは強い。これは拒んでも引き下がりそうにないと、山崎は微笑み、
「では、お言葉に甘えさせていただきます。今度三人が非番の日にでも。」
「そうですか。」
それでは、と軽く山崎は会釈し、三人は須崎家を後にしたのだった。

 須崎家はどうやら身分のある家らしい。あの後すぐに総司から三人揃って休みを取るように命令された。咲子が気に入ったらしい杉本は浮かれていたが、純矢は首をかしげ、
「自分は関係ありません。」
「だって、お前が発端だよ?」
「地方人の家になど行きたくありません。」
軍人とそれ以外の間に強固な境界を引き、地方人を上から扱う純矢にとって、軍つながりではない家に行くなど敵地に行くようなものだった。
 それを何とかなだめすかし、山崎の護衛、と言うご大層な名目をつけて、純矢を外に引っ張り出した。
「…隊長。俺なんだか腹が…」
親戚の家も、杉本の実家のある地域では見たことがないほど大きかったというのに、ここはさらにとんでもなく立派な家だった。もう上がるのすら悪いことのように思われる。
 純矢は別の観点から、心底嫌そうな顔をして立っている。山崎と杉本が私服なのに対して彼はやはり軍服をかっちり着込み、帽子すらも取ろうとしない。
「大丈夫だって。お前ら訓練は怖くないのに、どうした。」
そうこうしているうちに、女中が出てきて咲子を呼びにいったのである。
「どうぞ」
咲子は微笑んだ。
「何だかお気を使わせてしまいすみません。これは土産です。」
山崎は途中で買った菓子折りを渡した。
「いいえ、こちらこそ。」
貴志も奥から出てきて、嬉しそうに言う。
「やぁ、来ていただけましたか。どうぞ上がってください。何のもてなしもできませんが、ゆっくりしていってください。」
「では遠慮なく。」
山崎は杉本と純矢をせかして、やっと家に上がった。
 通された応接間も異様に広い。畳のいい匂いに、山崎はすっかりくつろいでいるが、杉本はぎこちなく固まったままだ。純矢は左手で刀を持ったまま立っている。
「純矢、座れ」
「座ると初動が遅くなります。」
完全に純矢の中では敵地らしい。
 すぐさま料理と酒が運ばれてきて、宴会となった。朝、部隊から追い出されるようにして外出してきた三人である。腹は完璧に減っていた。特に杉本は先ほどのしおらしさはどこへやら、どうぞという貴志の言葉と同時に箸を取り、食べ始める。さすがの純矢もやっと座ったが、見たことのない料理の数々に、それらを凝視したまま動かない。
「さすが、軍の方は食べっぷりが気持ちいいですね。」
「そうですか?」
口の中に米を入れたままの杉本は、もごもごと返答する。山崎は出された日本酒を舐めながら苦笑した。
「すみませんね、しつけがなっていなくて。」
「いいえ。うちはみな食が細いものですから、こんな風に食べていただけると料理長も喜ぶでしょう。」
「さすが、須崎家のご本家ですね。」
山崎は部屋を見渡す。
「建物もすばらしい造りですね。使っている木材も普通では手に入りそうにない。」
「そうでしょうか。」
代々引き継いできただけの家ですから、と貴志は言う。
「そう、須崎には軍属のものがいないので、海軍の話をお聞きしたかったんです。構いませんか?」
「えぇ、いいですよ?」
杉本、と山崎は横で必死になって食べている杉本に言った。
「お前、食べてばかりいないで、お前の自慢の撃墜話でも聞かせてやれ。」
「撃墜と言いますと、山崎さんや杉本さんは戦闘機乗りなんですか?それはすごい!」
すごいと言われ、ますます杉本が勢いづく。予科練時代から大陸での話を面白おかしく話しだした。貴志はそれを、目を輝かせて聞いている。
「織田さんは?」
杉本の話が終わる頃、貴志は純矢を見た。
「織田さんも海軍…ですよね?」
当然純矢は返事をしない。やっと食べ始めた白米に興味がいっているようである。
「あぁ、純矢もそうです。俺の三番機ですよ。」
「そうなんですか。お若いのに隊長機を守る役目を。」
貴志は茶をすすった。山崎は首をかしげ、
「確かに純矢は若いですが…貴志さんもそんな若いのに、もう家を継がれているのではないですか?」
「え?」
杉本が声を上げた。
「もう?」
「はは、父が早くに亡くなりましたから。」
貴志は笑う。杉本は首をかしげ、
「貴志さんはいくつですか?」
「先日二十歳に…」
瞬間杉本は茶を噴出した。
「はぁ…俺なんて23だってのに」
肩を落とす杉本に、山崎はハンカチを差し出しながら、
「お前がそれを言うなよ。俺なんかもうすぐ30だ。」
「え、隊長ってそんな年でした?」
「そんなとか言うなよ。落ち込むだろう。まぁ確かに…そんな、だよなぁ。貴志さんはお嫁さんまで貰ってて…」
「嫁さん?」
杉本は慌てた。
「え、まさか、咲子さんと貴志さんは…」
恐る恐るいう杉本に、貴志は照れたように、
「えぇ、最近結婚いたしました。それで親戚周りをしていて、山崎さんたちと会うことができたのです。」
「あ、そう…結婚かぁ…」
ますます落ち込む杉本に、山崎は慰めるようにその肩をなでてやった。
「お二人と年齢は純矢のほうが近いな。純矢は15なんですよ。」
今度は貴志が驚いた。
「織田さん、若いですね!」
純矢は彼らが何の話をしているのか、興味がない上に分からない。ただ黙々と出された料理を噛み締めている。
 そのとき、女中が来て、咲子に何やら耳打ちをした。咲子はそう、と頷いて、貴志に言う。
「そうか、今日は軍に縁がある日だなぁ」
貴志は呟き、山崎を見た。
「すみません、分家の方に客人がありまして、ぜひ山崎さんたちにお会いしたいと。」
「俺達に?」
「はい。実は…」
言いよどんで純矢を見た。
「織田さんと雰囲気の似ている方で、てっきりご親戚かと思ったので話をしたのです。そうしたら、海軍にお身内はいらっしゃらないそうなのですが、それほど似ているなら会ってみたいとおっしゃられて」
純矢は箸を止めた。そしてしばらく襖の向こうを見つめていたが、唐突に立ち上がると刀を右手に持ち替え、お膳を乗り越える。
 山崎が止める間もなく、驚く咲子と貴志の間をすり抜けて、その襖を開けた。
「神谷!」
思わず山崎が声を張り上げ、立ち上がる。
 人の家なのにくわえ煙草の神谷が、廊下にいるではないか。横には貴志よりも線の細い、より色白の物静かそうな青年がいる。
「驚いた…」
青年が呟くと同時に、純矢は敬礼をした。神谷は答礼し、煙草の煙を吐きだす。
「やはりな。」
「な…どうして」
頭の中に渦巻く言葉が口から出てこない山崎に、
「まぁまぁ隊長さん、慌てなさんな。正史君、案内ありがとう。」
見たこともないくらい丁寧な物腰で、神谷は青年に礼を言った。山崎は警戒心を隠すことなく、立っている。
「お知り合いですか、偶然ですね。」
正史は神谷に言った。純矢はそれを見て、ちらりと正史を眺める。彼が神谷にとって無害であるかどうか、というところであろう。
「そうだな。なぁ、純矢」
神谷は薄く笑い言った。
「甥っ子だよ。」

 陸軍と海軍の間には、お互いに相容れない溝がある。
 今、この須崎家の広い応接間で対峙している陸軍大佐と海軍の航空隊中隊長の間にも、同じような、もしくはそれ以上に深い溝ができている。
「そうか、そんなことが。」
座りもせずに、神谷は山崎と杉本を見下ろしている。純矢はその横に控えたまま、何を見るでもなく立っていた。
「いい部下をお持ちですなぁ、中尉殿?」
神谷の目元に嘲りの色が浮かぶ。海軍は暇だろう、という馬鹿にした口調に、
「どうも。」
笑顔を浮かべる山崎の横顔があまりに不気味で、杉本は仕方なくまた食べることに没頭し始めた。
「大佐殿は」
純矢が口を開く。
「大佐殿はお一人でありますか。」
護衛も連れずに、という言葉を隠している。神谷は正史を見て、
「正史君のご祖父様に満州で世話になってな。お亡くなりになったという連絡はもらっていたんだが…」
純矢はちらりと正史を見る。が、すぐさま逸らして神谷を見た。
「織田さんは神谷さんのお身内でしたか。」
貴志の声で、ひとまず凍りついていた空気が温まる。
「神谷さんが陸軍でしたから、まさか海軍の織田さんがそうだとは思いもしませんでした。そうだ、神谷さんもいかがです、ぜひ陸軍のお話もお聞きしたい。」
再び純矢の目が動いて、貴志を見下ろす。
 神谷は相変わらず薄い笑みを浮かべたまま、
「申し訳ないが、急ぎ戻らねばならなくてね。またの機会に。」
「大佐殿」
背を向け歩き出す神谷に、純矢は後を追おうとする。
「一人ではない。」
神谷は振り向きもせず言った。
「車を待たせてある。貴様は」
煙草の煙を遠慮なく吐き出し、
「そこの中尉殿の面倒でも見ていろ。」

 会食も終わり、山崎は玄関先で、咲子が手渡してくれた帽子を被った。
「今日はありがとうございました。久々にゆっくりと食事させていただきましたよ。」
「いえ、こちらこそ。これを機会にまたお話でもお聞かせください。」
握手を交わして、山崎が振り向くと、杉本と純矢が言い争いの真っ最中だ。
 杉本は純矢がお膳から離れた隙に、刺身を一つ、純矢から失敬したのだ。神谷に言われた山崎の横に戻ってきた純矢がそれに気がつき、それでも食事中は黙っていたのだが、言わずにはいられなかったらしかった。
「いいじゃねぇかよ、刺身の一つや二つ!ああいう生ものはさっさと食わなきゃいけないもんなんだよ!」
「ふざけるな!二つどころじゃない、全部食っただろう!」
山崎は困ったように笑って、
「すみませんね、どうにも食べ物には固執する奴らで。そんなに飢えさせてはいないんですけど。」
咲子は面白そうに笑って、包みを差し出した。
「お口に合うかどうか分かりませんが、お萩を作りましたのでお持ちになってください。」
「ありがとうございます。」
これで何とか純矢の機嫌が直るかな、と山崎は無意識に呟いた。それを聞いて、咲子も貴志もおかしそうに笑う。
「山崎さんはお二人の母親のようですね。」
咲子に言われ、さすがの山崎も動揺した。
「母親、ですか…」
「えぇ、初めてお会いした時からそう思っておりました。軍隊は怖いところだとばかり思っておりましたが、何だか安心いたしました。」
「あぁ…」
神谷を見ていたらそうだろう、とこちらは心の中で呟き、山崎はもう一度礼を言って玄関を出ようとした。
「お気をつけて。」
貴志の言葉が追いかける。振り向くと、優しそうに微笑む貴志と、会釈をする咲子がいた。
 何故だかそれがとても遠いものに感じ、山崎は寂しそうに二人を眺めながらも会釈をすると、杉本と純矢を引っ張って、須崎家を後にした。
 純矢と杉本はいまだ言い争いの真っ最中だ。どうやら刺身だけでなく味噌汁まで飲まれたらしい。
「こら、いつまでやっているんだ。」
山崎は包みを純矢に渡した。
「お萩をもらったよ。杉本の分もお前が食え。それでいいだろう。」
「隊長!」
杉本が悲鳴を上げる。
「咲子さんの手作り…ですよね!一つくらいいいでしょ!」
「お前なぁ…人妻もお前の許容範囲か。」
「だってすごいおしとやかな美人で…はぁ、まさか結婚していたとはなぁ!てっきり妹さんかと思ったのに!」
夢うつつに答える杉本に、純矢は包みの匂いをかぎながら、
「貴様には一つもやらん。」
咲子よりもお萩の純矢が言い放つ。
「織田!」
そんな二人を眺めながら、山崎は煙草をくわえた。
「お前らがそんなだから、俺がお母さんって言われるんだ。」
「え?誰が誰のお母さんですか?」
杉本の声が驚いてひっくり返る。
「俺が、お前達のお母さんだって。咲子さんが言っていたよ。」
純矢の頭を撫でながら、山崎は言う。
「まだまだだな、杉本」
「そんなぁ。」
うなだれて肩を落とす杉本をよそに、純矢は山崎に
「あの、隊長殿」
「ん?」
「一つ…一つ食べてもよろしいでありますか。」
甘いものに目がない純矢は、どうやら餡の匂いに耐え切れなくなったようである。
「基地に帰るまで我慢しろ。」
「はい」
珍しくしおれる純矢と、子ども扱いに落ち込む杉本を眺めながら、山崎は須崎家で見た光景が、己には手に入らない世界だと認識しつつも、それでもこの部下達がそばにいればそれもいいかと、幸せそうに微笑むのだった。


わわわ…! 「パンドラの箱」がなんと「桜花」とコラボしていただけるなんて!!
神風零様ありがとうございます><。
もともとの発端は、神谷大佐とうちの須崎貴志の名前が同じだということ。そして実は同じ時代を生きていたということで、こうしてコラボが叶ったわけです☆
本当に本当にありがとうございます!
是非是非、「桜花」本編もお楽しみ下さい↓

大和雪原

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